創作物

エッセイ

体に悪そうなお菓子

体に悪そうなお菓子が好きです。色が濃いやつだったり、びっくりするぐらい甘いやつだったり。ぶっきらぼうな甘さって全然お上品じゃないけれど、どうしても癖になってしまうものです。

特に人工甘味料は、忘れられない恋に似ています。不自然なほど高い糖度は量産的かつ安価で、摂取すればするほど喉が渇いてしまう。依存性の高い嗜好品。そういうものに限って、片時のちょっとした幸せだけをわたしに教えて、すぐに消えてしまうのです。

お菓子の中でいちばん好きなのは知育菓子です。知ってますか、知育菓子。自分で水と危険そうな粉とをぐるぐる混ぜて、可愛い見た目にしていくやつです。ねるねるねるね、みたいなね。

毎日一生懸命生きていると巻き込まれる、悲しいことや嬉しいこと。たとえば、友達にインスタのフォローを外されてるのに気づいてしまったこと。ご飯屋さんに行った時に『ご自由にお取りください』の飴をもらったこと。手をつけていない課題がいくつも残っていること。緊張して行った面接が思ったより怖いものじゃなかったこと。バイト先でお皿を割ってしまったこと。朝起きたら左頬のニキビが消えていたこと。そういう色とりどりの気持ちは放っておくとぐちゃぐちゃに混ざって、真っ黒な塊になってしまう。それが心の中にあることがどうしても苦しくて、ちょっとだけ泣いちゃうことって、わたしには時々あります。みんなも、そういう時あるよね。

でも、知育菓子はちがう。いろんな粉を混ぜても黒い塊になんてならないのです。そして、ジャリジャリと粉を混ぜるときのスプーンの感触が、わたしはちょっと好きです。せっかく綺麗な形にしても、食べちゃえば全部無くなっちゃう寂しさも、ちょっと好きです。全部終わった後に「あーあ、片付けるのめんどくさいな」と思ってしまう感じも、ちょっと好きです。

わたしは体に悪そうなお菓子で、ちょっとだけ得られる「好き」を集めたいだけなんです。粗雑な甘さにうっとりしたいだけなんです。その後になんにも残らないって知っていてもね。

執筆者

文芸学科2年 姜山紅葉

この作品は2023年度エッセイ研究Ⅱの実習で制作されました。