小説
Munch
特技は食べること。
食べてる姿だけは家族にも友達にも好評で、妹には「初めてのデートは絶対ご飯食べに行った方がいいよ」なんて言われる。
私の好物は、、、う〜ん、決められない。
1位を決めてしまうのはもったいないくらいこの世はおいしいもので溢れている。
アレルギーがある分食べれるものは限られているけれど、『”美味しいもの”はとことん食べる』が私のポリシー。
毎月の給料はほぼ食費で消えていく。1人で外食するときも1人だからって容赦はしない。しっかり美味しいものを食べる。
私にはセンサーがついていて、“これは美味しい”とか“これはあんまりだ”とか“これは私の食べられないものが入ってる”とか、大体わかる。
そして大体当たる。
美味しかった時、美味しくなかった時、「ほらね〜」と何度言ったことか。
いつだったか、喫茶店でデミグラスハンバーグを注文した。すごくデミグラスハンバーグが食べたい気分で、でも少し危ないかもとも思った。
それなのに、なぜか、なぜかその日は店員さんに聞くのが面倒くさくて、特に何も聞かずに注文した。
間違いなくあの時、私のセンサーは反応していたのに、その反応を無視した。
運ばれてきて、とても美味しそうだったから、恐る恐るひと口。
飲み込んで数秒。
喉が痒くなって、胃が冷たくなって、胃が重くなって、唇が腫れてきた。
アレルギーの症状が次々と出てきて、冷静に「ほらね」ともう1人の私が言った。
そんなことがあった。
私にとって、危険と隣り合わせの『食』だけれど、だからこそなのか、誰よりも執着しているような気がする。
食べ物が2つ並んでたら絶対大きい方を食べたいし、焼き色がちょうどいいものをとってしまう。「ひと口ちょうだい」と言われて、自分の食べているものが残り少なかったらあげるのを渋るし、自分がもらった量以上を食べられると、ムッとする。
食べ物に関しては広い心など持ち合わせてはいない。そんな余裕などない。
口の中にパンパンに美味しいものをいれて、もぐもぐして、最後のひと口は大切に食べる。
この時間が1番の幸せなんだから。
おばあちゃんになっても変わらずこんな自分でいたいと思う。
(執筆者情報)
文芸学科/オカモトユイ
文芸研究III(谷村順一ゼミIII・2021)「800文字で書くオノマトペ」