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在学生の方へ

令和6年度学位記授与式の式辞

このよき日に、四年間の学業の証としての学位記を手渡せることを嬉しく思います。

 

 コロナ禍2年目の入学。一年先輩たちの過酷な状況、入学式もなく半年間すべてオンラインという状態からすこし改善したとはいえ、厳しい状況で大学生活を始めたのがみなさんでした。江古田キャンパスという場での4年間、場を共有する体験ということの貴重さを、この先長い人生の中で思い返すこともあるでしょう。

 

 この場から巣立たれるみなさんに、私から送る言葉は、「リバイバル」という概念に慎重な目を向けよう、というものです。 昨今、決定権を持つ年取った年齢の方々が、新しいものへの情熱と感性を鈍らせた結果、彼らが若い頃に親しみ熱狂したもののリバイバルを作らせています。「うる星やつら」をはじめとするいくつかのアニメもそう。大阪万博もそう。すでに3年も続いているウクライナの戦争さえ、ソビエト連邦よもう一度、のリバイバル精神がなすものでしょう。そういった枯れた圧力を萎びさせるような、みなさんにとっての「初めて」をこの世界に溢れさせてください。

 

もちろん、歴史がつみ重ねた遺産にも大切な価値があります。ですから、リバイバルで上書きするのではなく、過去に敬意をはらって隣の空き地に新しい棟を建築するのがよいでしょう。その成功例が、最近では「機動戦士ガンタム ジークアクス」ですね。1979年のガンダムで戦争に負けた側が戦勝国になっている架空戦記です。もとの歴史を知っている人は観測者としてそれを楽しみ、正史では出会えていたライバルと出会えない登場人物が、違う人物になっていることを少々寂しく感じることもあるでしょう。

 

 歩んできた現実の人生に「if」はありません。でも、そうであったかもしれない世界を、わたしたちは文学の力で創造することができます。この力を身につけることができたみなさんが、自分にとってよりよい未来を歩めることを願って、卒業のお祝いの言葉にしたいと思います。

 ご卒業おめでとうございます。

2025年3月25日 文芸学科主任 青木敬士