創作物

小説

若竹色の心

 頭を空っぽにしたい。色々なものが変わってしまった一年は数え切れないニュースや情報と一緒に洗濯機へ放り込まれたようで、頭がパンクして目が回ってしまった。

 これからどうなるのだろうと薄っすら不安が付きまとうから、スマホをいじる時間が増えて寝不足になってしまった。そんな毎日が嫌になってスマホをベッドに投げる。外の空気が吸いたくなって、久々に外へ出た。マスク越しの空気は美味しくない。モヤモヤしながら浅い呼吸を繰り返していると、隣のおじいちゃんに声をかけられた。

「今からたけのこ掘りするけどさ、一緒に来るかい?」

「行く! 待ってね、シャベル持ってくる」

 考える前に答えていた。ずっと家に閉じこもっていたから、今がたけのこの季節だったのが頭の中から抜け落ちていた。シャベルを出して、おじいちゃんと裏の林に入る。

「昨日ウンと雨降ったから、たくさん良いのが生えてるな」

 おじいちゃんに言われて地面を見ると、あっちにもこっちにも黄緑色の先が見える。一本目に、おじいちゃんに譲られたどっしりと大きいたけのこを掘り始めた。何度もシャベルを地面に突き立てて、土を掘り返していく。随分体を動かしていなかったから、すぐに息が上がった。それでも楽しくて、根っこが絡まった土を持ち上げる。最後に両足で体重をかけながらたけのこの根本にシャベルを差し込めば、たけのこはゴロンと転がった。

「お嬢ちゃんはたけのこ掘りが上手だねぇ。しっかり腰が入ってるよ」

 早くも二本目を掘り始めているおじいちゃんに褒められた。ありがとうと返して、つられるように二本目を掘る。汗ばんで、シャツの袖をまくり上げる。ちょっと休憩しようと腰を伸ばすと、青々とした竹が青空を狭くしているのが見えた。その中には自分の足より太い竹もあって、何年ここに根を張っているのだろうかと思う。

 変わっていないものがこんな近くにあると、ふっと心が軽くなる。だから、変わったものに気を取られて過ぎて、自分も変わらなきゃと無理をするのはやめようと思った。

 シャベルを手にとって、また土を掘り始める。一本目より大きいので掘るのが大変だけど、それ以上に楽しさが出てきてシャベルを持つ手に力が入った。

 二本目を掘り終わった時、おじいちゃんはまだ掘るというので先に帰ることにした。その帰り道に、まだ茶色い皮を被っているけれど、自分の身長くらいの新しい竹を見つけた。この竹はきっと、ずんずん成長していく。なら、私もこの竹に負けないくらい成長したい。色々なものが変わっても、自分の足くらい太い竹のような、譲れない芯を見つけたい。深呼吸を一つしたあと、胸を張って林を出た。

執筆者

文芸学科/八木夏美

(文芸研究上坪ゼミ・テーマ「願い」 ・2021)